2019年10月 読売新聞に掲載されました。「コスパ満足 空き部屋対策」

賃貸マンションでも、個性のある内装にしたい。そんな声に応えようと、借り手の要望を取り入れたリフォームを行うマンションが出ています。大家にはそれなりの初期投資が必要になってきますが、空き部屋対策に繋がり、貸す側・借りる側とも満足度が高いようです。

兵庫県尼崎市の住宅街にある築45年のマンション。その1室の1LDK(約50平方メートル)に、共に会社員の渡辺翔貴さん(23歳)森本愛美(28歳)さんが二人で暮らす。同居しようと昨秋から物件を探し始め、今年1月、無垢の杉材を使った床に温かみを感じ、この部屋に決めた。

驚いたのはここからだ。「床材や壁紙、ドアの種類などはお好みに合わせますよ」と大家の西村康司さん(50歳)。借り主の希望を聞いて部屋を改修し、費用は原則大家が負担する。退去時に原状回復する必要もない。

2人は、6畳の和室をフローリングに変更。濃い青色だったキッチンのタイルやアクセントタイルを明るい色にした。リビング隣のクローゼット入り口はアーチ状にし、柔らかな雰囲気にしてもらった。「自分たちで住まいを作っていくのが面白かった」と渡辺さん。森本さんも「好みの内装になり、自宅がいっそう落ち着ける場所になった」と喜ぶ。2人の入居前から決まっていた、2LDKの間取りをリビングを広く取った1LDKにリノベーション(大規模改修)する工事費を含め、西村さん側の負担額は約250万円。家賃は月7万5000円で、3年ほど住んで貰えれば費用は回収できる。

西村さんは10年前、父親が所有するマンション4棟(計85室)の管理を任された。ただ、いずれも1970年代〜80年代半ばに建てられた物件で老朽化も進み、空き部屋も目立っていた。

「このままでは空き部屋は増える一方。どうやったら住んで貰えるか頭をひねった」

他の業者の取り組みも参考に2年前、借り手の意向を踏まえたサービスに着手。初期投資は軽くないが、費用対効果は高く、これまで募集した7部屋はすぐに入居者が決まった。比較的、若い世代が多いという。「借り手が部屋に愛着を持ってくれるのが嬉しい」住民同士の交流イベントなども仕掛けてみたい」と西村さん。空き部屋が減って人のつながりが生まれれば、地域も活気づく。

「借りてよし、大家よし、地域よし」の「3方よし」だ。

 

物件の未来像描いて共感を

総務省の2018年の住宅・土地総計調査では、過去5年で賃貸マンション・アパートなどの空き家は2万個増えて431万個。入居率低下を受け、管理会社などは対策を急ぐ。

リノベーション企画・施工会社「フロッグハウス」(神戸市)の「おこのみ賃貸」は、入居者が希望した間取りに改修したり、壁紙のデザインを変更したりできる。費用は大家が負担する。

街づくりを手がける「まめぐらし」(東京都)は大家らを対象に、人が集まる物件づくりや住民同士コミュニケーションを取る場を講師などから学ぶ。「大家の学校」を2016年に開講。

11月末には大阪でも開く。代表の青木純さん(44歳)は「所有する物件をどんな場にしたいか、大家がしっかりとした未来像を描くことが大切・そこに共感を得られれば、築年数に関係なく人は集まる」と話す。

※上 自分たちの好みに合わせて内装を変えたマンションでくつろぐ渡辺さん(左)と森本さん。

床の色も二人で選んだ(兵庫県尼崎市)

※下 クローゼットの入り口はアーチ状。「お店みたいでかわいい」と二人のお気に入りだ。