2023年1月 神戸新聞に掲載頂きました!

ラジオ関西「神戸新聞アクセスランキング」でも第4位で紹介頂きました。

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兵庫県明石市と神戸市垂水区にまたがり県内で最も歴史があるニュータウンの一つ「明舞団地」。ここで育った男性が、団地のリノベーション(再生)で存在感を示している。高度成長期に設計されたファミリー向け間取りを1人暮らし用に一新した物件は、相場を大きく上回る価格で買い手が付いた。老朽化や高齢化が課題となる中、若い人に入居してもらい住環境を守ろうと、住人たちも工事を後押しした。団地を取り巻くリノベ事情を探った。

 

■若者の入居促進、管理組合も協力

まちの中心部、明舞センターの近くに、目当ての物件はあった。「内部で上下階を行き来できるメゾネット型で、団地としては珍しいんです」

清水大介さん(45)が案内してくれた。14歳まで明舞団地で育ち、現在は工務店フロッグハウス(明石市)の代表として、建築士の笹倉みなみさん(35)と二人三脚で「団地リノベ」を手がけている。

玄関を入って階段を上がると、上の階は広々とした一つの空間になっており、アイランドキッチンがあった。もともと3部屋に分かれていたが、壁を取り払い、下の階にあったキッチンを持ってきた。下の階へ行くと、最新のユニットバスや洗面台が目を引く。ベランダにあった洗濯機置き場は室内へ移した。完成から55年たつ建物の古さは、まったく感じられない。

「限られた空間で1家4人が暮らせるようにした団地の間取りは今の暮らしに合わない。1世帯当たりの人数も減っている。思い切って1人暮らしに照準を合わせた」と清水さん。「改修により、断熱性能が低いため冬に寒かったり洗濯機を屋外で回す仕様だったりする団地の弱点も克服した」

キッチンを上階に持っていくには、配管を通す穴を壁に開ける工事などが必要になったが、住人でつくる管理組合の規約では認められていない。ではなぜ、工事ができたのか。

管理組合の60代男性は「団地で空き家が増えることに危機感がある」と背景を明かす。明舞団地では65歳以上の高齢化率が44%(2020年)と、兵庫県全体の29%を大きく上回るペースで高齢化が進む。

「規約を守って空き家が増えるのを待つか、建物強度への影響がほぼないのであれば工事を受け入れて若い居住者を呼び込むのか、選択を迫られた」。住人同士で話し合い、試験的に許すことにした。

完成物件は、相場を大きく超える980万円で売り出したところ、複数から引き合いがあり、昨年12月に売却に至った。

男性は「空き家が増えればコミュニティーが弱まるほか、空き家が良くない使われ方をして住環境を悪くする。今回の結果は明舞団地の他の建物やよその団地にとってもモデルケースになると思う」と話す。

フロッグハウスの舞台は明舞以外にも広がる。名谷(神戸市須磨区)の団地物件をリノベする神戸市の外郭団体による取り組みでは、同社が設計施工を担った。2月からモデルハウスとして公開する。

「好き勝手なことができるのがリノベの良いところ。そのキャンバスは安価な方が良い。安くて、しっかりした建物も多い団地には利用価値がある」と清水さん。「団地をノスタルジー(郷愁)ではなく、ビジネスチャンスと見ている」と力を込める。

 

■需要を賄う手段に

【不動産調査会社東京カンテイ・井出武上席主任研究員の話】建材価格高騰などでマンションの販売価格が上がり、供給量が減っている中、単身者にとって比較的安い上、そこそこ広く、使い勝手の良い物件が不足している。最新のマンションほどの耐震性能がないなど弱点もあるが、管理規約や法律の見直しなどで団地をリノベーションしやすくすれば、需要を賄う手段の一つになり得るだろう。