逆別荘!? 六甲山頂のマンション暮らし

【今回訪れた六甲山山頂にあるリゾート用分譲マンション。山頂の別荘エリアは信州のような雰囲気が広がる。】

住むというよりは、観光地というイメージが強い六甲山山頂。明治から昭和にかけては、リゾート施設や別荘用の分譲マンションや戸建てが増えるなど、避暑地として大いに賑わっていたそうだ。

そんな六甲山山頂にある別荘用の分譲マンションを購入・リノベし、お子さんが山頂にある小学校に通う平日だけ住んでいるKさんという方がいる。

いったいどんな経緯でそんなユニークな暮らしを始めたのか、また実際にどんな暮らしを送っているのか。リノベーション設計を担当した清水基宏さんを交えてお話を伺った。

インタビュー・文:則直建都 写真:清水基宏

***

平日は六甲山、土日は垂水

─ 六甲山頂はもともとリゾート地として栄えていたため別荘として物件を所有される人が多いですが、Kさんご家族の目指す暮らし方はとてもユニークで驚きました。

Kさん)毎朝5分ほど歩いて上の子を小学校に連れて行くのですが、その度にこの暮らしを始めてよかった!と思っています。新型コロナの影響で小学校の始業が6月からだったので六甲山頂での暮らしはまだ始まったばかりですが、主人も楽しんでいるようです。子供たちはまだ馴染めない部分もあるようですが、少しずつ新しい暮らしに慣れていってくれると思います。

【窓からは山中のワイルドな緑が一面に広がる。向かいに建物がなく開放感もある。】

─ Kさんのように六甲山で暮らしてみたいと考えている人や、そもそも山頂に住める場所があるんだ!という方もいると思います。そんな方たちに向けてKさんの暮らしを紹介したいので、あらためて、六甲山頂と垂水の二拠点生活を始められたきっかけを教えていただけますか?

K)もともと、上の子を垂水にある『森の幼稚園*』に通わせていたのですが、卒園しても引き続き自然を身近に感じられる小学校に通わせてあげたいなと思っていたんです。それで小学校を調べ始めて『六甲山小学校』を知って、こんな小学校があるんだ!と垂水から通えないか検討し始めたのが事の発端でした。

でも、通学に1時間以上かかってしまうため、六甲山頂に住んだらいいんじゃない!?と思って(笑) 冗談半分で主人に話してみたら、ひらめいたことをやってみたら!?という主人の反応にびっくり!それで、さっそくインターネットで調べ始めて、今年の1月頃に主人と下見に来てみたりしていました。

このマンションは、2月にあった六甲山小学校のオープンデーに参加した時に、学校近くの不動産屋さんを訪れて紹介していただいたんです。たまたま、主人と来た下見の時にも訪れていたのでびっくり。実際にこのマンションから六甲山小学校に6年間通っていた子もいると教えてもらいとても安心できたので、ここに決めました。

日々の買い物に関してだけ不安があったので、もともと住んでいた垂水の家は残しておいて、小学校がお休みの土日に垂水へ戻って1週間分の買い物を済ませるという二拠点生活を送っています。親からは「それ、普通と逆やで。逆別荘暮らしやな」と面白がられています(笑)

4月の始業式に向けて

─ 2月に物件を決められて、4月の始業式までにリフォームして家を整えたい!と、フロッグハウスさんにご相談されたと聞きました。かなりスピーディーですね。

─K)そうなんです!丁寧にご相談にものっていただいたので、実際の工事期間は1ヶ月くらいしかなかくて……無茶なお願いなのに快く受けていただいて本当に感謝しています。

─新型コロナの影響もあり、最初にお会いして以降はすべて電話での打ち合わせだったのですが、私のイメージを汲み取っていただき、時には諭していただいて本当によかったです。

【間取りはバス・トイレ別のワンルーム。畳2間をLDKに変更したそう。】

清)洗濯機は置いた方がいいじゃないですか?とご提案した件ですね(笑)

K)はい、当初は極限までシンプルにしたいと考えていたので、室内に洗濯機を置くために工事が必要になったときに、「洗濯機は置きません」とお伝えしたんです。すると、ご担当の清水さんが「1週間分の洗濯物を毎週垂水まで運ぶのは大変ですよ。洗濯機は絶対にあった方がいいと思います」と冷静にアドバイスしてくださって。いま思うと、洗濯機を置いて本当によかったと思っています(笑)

他にも、カーテンは付けない方がいいとか、壁には断熱材を入れた方がいいなど、アドバイスいただいたことすべてに住んでから納得でした。

【もともとショートステイ用のマンションだったため、洗濯機スペースは新設。】

清)ありがとうございます。カーテンは、緑に囲まれていて隣に建物がないロケーションを活かさない手はないと思ってのご提案でした。断熱材は、もともとこのマンションが夏の避暑地用に建てられていたため、冬を過ごすことを考えてつくられていなかったんです。なので、断熱材を入れないととてもじゃないけど六甲山頂の冬は越せないと思いご提案しました。-20℃まで気温が下がると聞いたこともあったので。

K)断熱材は見えない所にお金がかかるので、たくさん着込めば大丈夫かも!?なんて言ったのですが、ここも冷静に「絶対に断熱した方がいいです。でないと冬を越せませんよ」と諭していただきました(笑)

そういった実用面に加えて、床やキッチンの板や内窓の枠を木の茶色で統一していただいたり、壁の下の方に控えめに入ったグレーのラインなど、見た目のデザインも好みをを汲み取ってくださっていて、とても気に入っています。

【壁の下方に入っているグレーのラインは、Kさんのお気に入りのひとつ。】

家は完成してからが「スタート」

─ 六甲山頂の住み心地はいかがですか?

K)毎朝、空気の良さに感動しています。買い物以外は、本当に不便はないんです。インターネットも普通に使えます。夜は真っ暗になりますけど、それはそれで街との違いがあって楽しいもので。

【別荘エリアだけあって、隣近所との間隔はたっぷり。】

【LDKを別アングルから。】

K)はい、実は六甲山の家にはテレビを置いていないんです。テレビのない暮らしを一度してみたい!という私の希望で、最初はどうかな?とちょっと心配していました。でも、垂水の家では帰宅したらテレビをよく観ていた主人が、ここでは音楽とお酒を楽しむようになったりと、六甲山頂ならではの暮らし方が生まれ始めています。あと、週1回の垂水への一家大移動も楽しいですよ。毎週ちょっとした旅行に行く気分で(笑) 

最近は、家は完成したら終わりじゃなくて、完成してからがスタートなんだなとよく思います。リフォームして整える時間よりも、そこから始まる新しい暮らしのほうが遥かに長いですから。下の子も六甲山小学校に入学させたいなと考えているので、最低でも10年くらいここで暮らすつもりです。その頃には、子供たちもこの暮らしにすっかり慣れて、たくましく成長してくれていたらうれしいですね。

─ Kさんご一家のこれからの暮らしは、ますます楽しくなっていきそうですね。

清)これからも、アフターケアを通じて暮らしのお話を聞けるのを楽しみにしています。

─ 本日はありがとうございました。

インタビューを終えて

はじめにKさんという人がいると聞いたときは、おもしろい人がいるものだとワクワクした。合理的なようで、そうでもないような?でも、おもしろいくてユニークな暮らしを送っていることは間違いない。

実際にお話を伺ってみると、家族全員でいまの逆別荘暮らしを楽しんでいることが伝わってきた。正直に言って定住するにはハードルの高い場所だ。しかしそれゆえに物件価格が手頃だから、「逆別荘暮らし」というユニークは発想に挑戦してみようという気になれるし、実現できてしまえる。なにより、お子さんをはじめ家族みんなで過ごしたユニークな暮らしは、かけがえのない財産になるだろう。

そう考えると六甲山頂で暮らすのも「アリだな」と、取材後に清水基宏さん* がハンドルをにぎる車の中で考えていた。

* フロッグハウスには清水さんが二人いる。代表の清水大介さんと、設計担当の清水基宏さんだ。血縁はあるのかとよく聞かれるそうだが、血縁はないそうだ。