団地の一室を西海岸のホテルライクに。
鍵は、イメージを超える提案力。
神戸市須磨区・名谷に広がる団地街の一角、竜が台団地。築40年以上経ちますが、レトロな面影を残したままきれいに塗り直された外観には、思わずときめいてしまいます。
大阪府吹田市からご夫婦で移住されたOさんは、広告業界でデザインのお仕事をしていたためインテリアにも明るく、依頼前から頭の中に実現したいお部屋のイメージがしっかりと出来上がっていたそう。アイデアの源泉は、Oさんがかつてアメリカ出張でよく利用したという、西海岸の中長期滞在型ホテルのインテリア。
団地の一室がここまで変わるの?と驚いてしまうほど見事に洗練されたOさんのお宅は、Oさんのセンスと、それを理解し寄り添ったフロッグハウスとの息の合ったコンビネーションから生まれたようです。Oさんのお話を伺いました。
住所:兵庫県神戸市
スタイル:団地リノベーション(約67㎡、購入時築40年)
費用:約1,300万円<物件購入700万+リノベーション600万円>
家族構成:夫(自営業)・妻(会社員)
フロッグハウス担当者:笹倉みなみ
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娘の結婚を機にコンパクトな暮らしにシフト
前は大阪の吹田市で、大きなディベロッパーが手掛けたマンション郡の一つに住んでいました。低階層でゆったり広い家だったのですが、娘が結婚することになり「2人では広すぎるね」と。奥さんは職場まで片道2時間半弱かけて通っていたこともあり、これを機に家を替わることに。新しい家を探し始めたのだけど、まだ何も決まらぬうちにマンションが売れてしまい大変でした。それまで土日だけ見学に行っていたのが、退去日が決まってからは毎日行くようになりました。
阪神間を中心に合計100件くらい見ました。条件を絞っていった結果、やっぱり「駅近」が大事だなと。名谷はノーマークだったのですが、見ていく中でたまたまこの団地群を知り、駅に近い今の物件にたどり着きました。この部屋は67㎡くらい。2人で住むには一部屋余ってちょうどいいかなって。
【レトロな面影を残しつつも、きれいに補修された竜が台団地の外観】
団地に決めた要素として、阪神大震災の時に被災した親戚の応援で訪ねて行った神戸のある地域で、普通の家屋やマンションはものの見事に倒れているのに、団地だけがポツンと建っていたのを覚えていて。「あんな大きな地震で倒れなかった団地ってすごいな」と、鮮明だったんですよ。そのイメージがあったので、リノベをやるんだったら団地かな、と。
全国的に団地群っていうのはかつてと違い、現在は高齢化の影響で入居者同士の世代間の考えの違いや管理の問題を抱えていることが多いのだけど、ここ名谷地域は行政がサービスを充実させて若い世帯を誘致したり、宅地開発当初から商業施設と居住空間とをはっきり分けていたりと工夫があるので、環境的にもいいと思ったんです。
過去の苦い経験から、イメージを理解してくれる業者を探した
前の家で2回、大手のリフォーム部門にお願いしてやってもらったのですが、こちらの改修イメージを伝えるためのコミュニケーションがなかなか大変でした。しかも出来上がった後、仕上がりや建具など気に入らないところがいくつかあって、工事終了後に何度も別の業者でやり直しをしたんです。
だから今回は、「自分がこういう風にしたいな」と思っている感覚を理解してくれるところにお願いしたいと考えていました。それで、スタジオ形式でやっているところを探していた時に、ホームページでフロッグハウスさんを知りました。
フロッグハウスさんの手掛けた物件を見て、「ここやったらいろいろ理解してくれそう、むしろ向こうからいろんな提案を受けられるんちゃうかな」と、第一候補にしました。やっぱりリフォームって、自分の夢はこうだけれど現実的にはできない、というのがあるので。そこを「それならこういう手がありますよ」と、いいあんばいでバランスをとってもらいたくて。
他にも何社かに工事見積もりの相談をする中で「自分の考え方やテイストをはっきり出さないといけないな」と思い、図面を描きイメージ資料を作って提出したら、他のところからは「うちはこんなの無理です」とイメージを大幅に変えられそうになったんです。フロッグハウスさんだけいい返事があったので、物件購入の契約を進めました。
【印象的なコンクリートアーチの向こうは、白を基調としたキッチン。】
こまめな確認と、イメージを超える提案力があった
前のマンションをすぐに退去しないといけなかったので、工事の進捗確認や生活ゾーンに慣れるため、工事期間は近くのURに住んでいました。内装の打ち合わせで物件を確認する際に、代表の清水さんから担当の笹倉さんを紹介されたんですよ。その時に、初顔合わせながら「こういう風にしたい」っていう資料をお見せしていろいろなお話をして…そこから始まったんです。工期は2ヶ月間くらいかかりました。
笹倉さんには、図面に各部屋のイメージ写真を配置した資料を渡し、「ドアは絶対にこれにして欲しい」など、具体的なメーカーのシリーズとか、色味とかを伝えました。その後、フロッグハウスさんの事務所で2回ほど、見積もりと照らし合わせて改修の詰めの打ち合わせをしました。実際にできることとできないことがありますから。例えば、「管理規約のために給湯器の追い焚きはできません」とかね、そういうのは仕方ないな、と。
【Oさんがご自身でクロスを剥がす作業を行ったアーチ壁。「結果的に“あえて”感があっていい感じ」と笹倉さん。写真右の扉や中央のキッチン家具も、狭い部屋がごちゃついて見えないよう、白を基調にOさんが選んだもの。】
リビングとキッチンの間のアーチは、元は白のクロスが貼ってあって高さも微妙で、通るときに非常に違和感があったんですよ。できれば撤去したかったけど「耐震強度のためのコンクリートだから動かせない」と言われて。「だったら前から住んでみたかったコンクリートの打ちっぱなしみたいにしようかな」とぽろっと口にしたら、「それいいですね!」と言われ、やることになりました。
このアーチと廊下の合計2箇所をむき出しにしましたが、インテリアのいいアクセントになっているので、剥がしてよかったです。実はこれ、「職人に頼んだら高いですよ」と言われ、自分でガシガシとクロスを剥がしたんですよ。
【廊下の壁のクロスも全て剥がし、コンクリートを剥き出しに。】
工事期間中、笹倉さんが進捗確認のために現場へ呼んでくれるんですよ。「この色でいいですか」とか、「フローリング貼りますから見てください」とか。こっちがこう思っているけど「現実にはこうなりますからね」っていうディスカッションが呼ばれるたびにこまめに行われました。
それ以外にも、具体的な写真なんかを笹倉さんが調べて送ってきてくれて。それに対して私が「それやったらいいかな」とか、「いやそれはいりません」とか。工事の終わりが迫る中で無駄がなかったです。こっち側の意見もよく聞いていただけましたから、改修後に「これは違う」となりにくかったです。
【Oさんの個室。この絨毯も、予算にあわせてイメージに合ったものを提案してもらったそう。天井の電気の配線は、パイプ管の中を通すというOさんのアイディアを実現。】
クロスやカーペットの選定も「これだけ用意しましたから選んでください」って、すごく楽でしたね。「どっからでも選んでください」ってたくさんのリストをドンと積まれても困りますからね。確かこのダイニングの壁紙も、写真だけだったら選んでいなかったと思う。私はマットな壁紙がいいと思っていたんだけど、笹倉さんがこれを持ってきてくれたから「これや!」ってなったんです。実際に貼られた状態を見ると、こちらのイメージを超えてくれましたね。
【「白いマットなもの」というリクエストに対して提案された候補の中から見つけた、凹凸感のある壁紙。クラシカルな雰囲気が部屋の格を上げています。】
【天井のライトグレーのクロスは、グレーの中でも色味をこだわって選んだそう。団地のデメリットでもある低い天井ですが、壁の色より少しだけ暗くすることで抜け感を作りました。】
どれだけ快適に気持ちよく1日を過ごせるかってとても重要で、それって気持ちいい空気感とかデザインとか、目から入ってくる情報が大きいじゃないですか。私は仕事柄、今回のリフォームは頭の中でイメージしたものに適した素材を選んでいこうとしていたから、それを理解していただける方がいるかどうかに成否がかかっていました。
【Oさんのお気に入りの場所。このソファに腰掛けた時の視界はとても開放的で、傍らの照明をつけて本を読んでいると日本じゃないような気分になれるそう。】
【奥さまの個室の内装も、奥さまの好みをよく知るOさんが笹倉さんと相談して考えました。他の部屋とは違った雰囲気ですが、こちらも温かみがあり居心地が良さそうです。】
しっかり伝えて、あとはプロに任せることも大事
リフォームをする時、多くの人は「あれもしたいこれもしたい」ってカオスになっている気がします。担当の人とよく話して、要素を1個1個整理して、それでもし自分で結論が出せなければ、「私のイメージはこういう感じなんです」ってお任せしちゃうことが結構大事。その方が絶対に良くなると思います。私の経験的に、“知ったか”でやればやるほど結果は悪くなる。
【奥さまの部屋の扉には明かり窓をつけたところ、とても気に入っているそう。】
【水回りの空間が狭いので換気を考慮し、トイレの入り口はアクリル窓を使った簡易扉に。こちらも奥さまのお気に入り。】
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今回の取材には笹倉さんも同行したのですが、思わず「お二人が出会えてよかった」と言ってしまうほど、“相性”の大切さを実感しました。前職は大手住宅メーカーのリフォーム部門の設計職だったという笹倉さん、当時はお客さんと直接顔を合わせることがほとんどなくジレンマを抱えていたのが、フロッグハウスでは関わる人全員と意思疎通ができ、とてもやりやすいそうです。
もちろん大手には大手の良さがあると思うのですが、はっきりとイメージを描いている人ほど、今回のOさんのように、個人と個人が知恵を出し合って作っていくようなリノベーションが向いているのではないかと感じました。
<取材・文: 村崎 恭子 >