ベースは海外ドラマのインテリア
「かわいい」を基準につくった、自分だけの城

Writer:村崎恭子
ライター/エディター/プランナー。サステナビリティやソーシャルグッドな活動の担い手へのインタビュー取材が専門分野。エシカルなものづくりのストーリーを届けるショップ「メルとモノサシ」を運営しています。https://meltomo.theshop.jp/

映画やドラマに出てくるインテリアに、心を奪われたことはありませんか?

今回ご紹介するのは、まさに海外ドラマのワンシーンから始まった家づくり。青いタイルが映えるキッチン、木製のアーチ、意匠性のあるフローリング床……訪れる人はみな思わず「かわいい!」と見惚れてしまいます。

施主のHさんは、女性お一人で団地を購入+リノベーションをするにあたり、物件探しから間取り、内装、インテリアに至るまで、とにかくご自身が「かわいいと思うもの」を最優先したそうです。

■DATA

住所:兵庫県神戸市須磨区
スタイル:団地リノベーション(69㎡、購入時築44年)
費用:リノベーション約1,910万円(物件購入約940万円、リノベーション約970万円)
家族構成:一人暮らし(女性・40代)
工事期間:約2.5ヶ月
入居時期:2023年11月
フロッグハウス担当者:笹倉みなみ

名谷団地に一目惚れ。空きが出るのを1年待った

以前は大阪の賃貸マンションで暮らしていたHさんですが、実家はここ、名谷団地のすぐ近く。年齢を重ねるほどに一人で暮らすのが心細くなってきたことや、実家のご家族や昔からの友達の近所で暮らしたいという思いが大きくなったことが、名谷団地での暮らしを考えるきっかけとなりました。

「マンションはやっぱり高いので、団地なら手に届くかなと思って、探していた時にここを見つけたんです。緑が多くて、外観がとにかくかわいくて一目惚れしてしまって。まずは賃貸で探していたんですけど、やっぱり買っちゃおうかなって。

大阪では10万円の家賃を払い続けていました。考えてみればこれまでに1,000万円以上かけたことになると思って。自分のものにしてしまえば、近くには姪っ子たちもいるし、いずれは誰かが住んでくれるんじゃないかって思ったんです」


(共有部の窓や柵など、丸みを帯びたデザインがあちこちにあり、昭和レトロな雰囲気がかわいい団地に一目惚れ)

物件を探す中でフロッグハウスにも問い合わせをし、一度だけリノベーションの流れを知ろうと話を聞きに行きましたが、実際に依頼を決めたのは物件を契約した当日のこと。契約書にハンコを押した帰り道、近くの商業施設でフロッグハウスの代表・清水がイベントに登壇していたのを見て「これはご縁があるのだな」と感じ、決意したといいます。

韓国ドラマの写真から始まった家づくり

当初は「昭和レトロ」な雰囲気でのリノベーションを思い描いていたというHさん。ところがインテリアについて調べるうちに、その時ハマっていた韓国ドラマのインテリアにビビッときたそう。ドラマの画面をスマホで撮影した写真2枚を担当の笹倉に渡し、家づくりがスタートしました。


(イメージとして提出した韓国ドラマのインテリアの写真)

中でもドラマを忠実に再現したのがキッチンです。
壁には一面水色のタイルを貼り、ショールームで自ら選んだ白い木製のヨーロピアンなキッチンを採用、棚の取っ手やシンクの蛇口も、限りなくドラマに近いものを選びました。さらには、吊り戸棚の棚割りまでもドラマと同じにするため、あえてサイズの異なる既製棚を二つ並べ、大工さんが現場でその高低差を埋めるように造作したオープン戸棚をつなぎ合わせています。


ドラマを忠実に再現したキッチン(photo by Atsushi Fujita)

他にも、寝室にあるルーバー扉のクローゼットやキッチンの入り口にある木製のアーチなど、ドラマに出てくる要素を家中に散りばめていきました。


(寝室のルーバー扉のクローゼットは、ドラマの主人公の寝室にあったものをイメージ photo by Atsushi Fujita)


(リビングからキッチンへの入り口は、躯体壁がアーチになっている。木材で縁取り、ドラマに出てきたクラシカルな雰囲気のアーチを再現)

好みを早く察してくれたから、すぐに決められた

ドラマのインテリアをイメージに置いたことで、間取りも内装も、いろんなことがスムーズに決まっていったそう。ほとんどの工程において、まずはHさんが画像検索アプリなどで見つけたイメージを出し、それに合うものを笹倉が提案する、という流れで進んでいきました。


(キッチン入り口のアーチとサイズを揃えて、和室への扉を木製のアーチ扉に。こちらは建具屋さんでフルオーダーで制作。取手もヨーロッパのものを採用 photo by Atsushi Fujita)

「笹倉さんが私の好みをものすごく早く察してくれて、導いてくれたという感じがありますね。持ってきてくれるもの全部に対し、かわいい!とすぐに思えて。悩んだ時も笹倉さんがかわいい!と言えばすぐに決められたように思います。

難しいとか言われるんちゃうかなって思っていたけれど、ほとんどのことを大丈夫ですよ、いいですよって言ってくれたから、一応言うだけはどんどん言ったんです。そうしたらほとんど叶っちゃったから、びっくりです」

居住空間全体のメインカラーになっている淡い水色の壁紙は、最初から「水色にする」とは決めていたものの、最後まで悩み抜いて決めた色。小さなサンプルでは広がった時のイメージがわからず、現状の色味でも「これでは薄すぎるのでは?」と不安だったそうですが、「濃すぎたらうるさくなりますよ」という笹倉のアドバイスで決心。結果的に、全体が色壁というお家でありながら、とても落ち着いた雰囲気になりました。


(薄すぎず濃すぎず、絶妙なブルーが、Hさん邸の居住空間のメインカラーとなっている photo by Atsushi Fujita)


(床は、最初はヘリンボーンで考えていたものの、パーケットフロアと呼ばれる、独特な組み方のフローリング材と出会った。いろんな柄があった中で、この柄が「かわいい!」とすぐ決められたそう)


(さりげないこだわりが、洋間部分の壁と床をおさめる巾木部分。日本の一般的なものよりも高さを持たせあえて目立たせることで、全体を海外っぽい雰囲気に)


(どうしてもドラマの世界観から離れてしまう既製のお風呂は、アーチ型の鏡を設置して工夫した)

あえて間取りは3LDKのまま。「狭いところが好き」というHさんは、区切られた空間の方が落ち着けると考え、個室を3つつくりました。


(和室にこもっていても、ガラス扉があるので抜け感がある。洋風の扉でありながら、木製だからか畳との相性もよい)

全てが想像を超えてきた

大阪に住んでいたこともあり、現場へは主に土日に様子を見にきていたそう。毎回とても楽しみだったものの、「あんまり見ちゃったら楽しみがなくなる」と、完成が近づくにつれあまり顔を出さないようにしていたといいます。

「引き渡しの時に中を見て、わ〜っ!て(笑)。泣きそうになりましたね。自分の中ではイメージができていたつもりだったんですけど、もう全部が想像を超えてきたというか。洗面所も台所も、かわいい!って。やっぱり、アーチの扉が一番インパクトがありましたね」

嬉しさと感動のあまり、「入居後しばらくは自分の家と思えず、よそ様の家にお邪魔しているような感覚だった」とHさん。大切な床を傷つけたくない思いが強く、少し神経質になっていた時期もあったとか。入居から半年が経ち、ようやく心から「自分の家」と感じられ、居心地良く過ごせるようになったそう。今でも床に水滴がつけば必ず拭きとるなど、大事に大事に扱っています。


(寝室は最も好きな部屋。お気に入りの花柄の壁紙は、画像検索アプリで見つけたものと全く同じものを見つけてもらえた)


(どの部屋からも見えるキッチンは「どう切り取ってもかわいい」とHさん。こちらは寝室から見た様子)

当初はまったく考えていなかった断熱については、フロッグハウスからの提案を受け、二重窓と壁断熱の両方を採用しました。

「予算が上がるのでやめようかと思ったんですけどね。周りに絶対に入れた方がいいって言われて、やることにしたんです。実際に一冬住んでみて、結露が全く出ないから、よかったなって」

名谷は大阪よりも冬が寒く、「本当に断熱が効いてるの?」と半信半疑の時期もあったものの、同じ団地の別のお宅にお邪魔した際に、暖かさの違いを実感したそうです。

名谷で暮らすと決めて家探しを始めた時、Hさんの予算は1300万円ほど。予算を大きく上回ったこともあり、契約後は体調を崩すほどプレッシャーを感じていたそうです。そんな自分を納得させたのは、「いざとなれば売ればいい」という考えと、「自分の城がほしい」という気持ちでした。

「もう、終の住処やと思って。だからお金はかかるけど、こだわろうと決めて、頑張ってみました」

Hさんはその覚悟の中にいても、「動線などの実用性を全く考えなかった」と振り返ります。実用性についてはフロッグハウスに任せ、自身はあくまで「かわいい」を基準に、徹底的にこだわったのです。それだけ、Hさんにとっての居心地の良さとは、自身の「かわいい」と思うものに囲まれることなのだと、痛感しました。

団地の一室で、大好きな映画やドラマの舞台を再現し、その世界に浸るーーHさん邸には、団地リノベーションの新しい楽しみ方を垣間見た気がします。