新築マンション生活の気づきから
“コンパクトで動きやすい暮らし”を実現。
夫婦二人の団地リノベーション
海沿いの垂水駅からバスに揺られて坂をのぼること約5分。家々が所狭しと建ち並ぶ住宅地を抜けると、視界がパッと開けます。
1970年代につくられた垂水高丸団地は、建物の間ごとに駐車場があるため、周りと比べてゆとりのある印象を受けます。
今回ご紹介するのは、この団地の物件を購入し、リノベーションして暮らす今井さんご夫妻です。
お二人は2022年、近くのマンションからこの団地へ住み替えを実現しました。団地リノベーションとは思えないくらい、広々と開放的なリビングダイニングが特徴的なお宅です。
今井さんに、団地を選んだ理由やリノベーションのこだわりポイントを伺いました。
■DATA
スタイル:団地リノベーション(約74㎡、購入時築51年)
費用:物件購入約300万円、リノベーション約1,000万円
家族構成:夫婦(50代、共働き)
フロッグハウス担当者:清水大介
15年以上住んだ新築マンションを売却
「ホームページで建築の情報を見るのが好きで、もう何年も前からフロッグハウスさんのことを知っていました。清水さんが明舞団地出身ということで、私の実家もあのあたりなので、勝手に親近感を持っていたんです」(妻)
2021年末ごろにフロッグハウスに声をかけ、物件探しがスタート。塩屋、高丸、明舞…と馴染みのあるエリアを中心に見ていきましたが、なかなか値段と条件が理想にかなう物件には出会えませんでした。年明け2月ごろ、マンション売却をお願いしていた不動産会社が団地物件を扱っていると聞き、内覧したのが現在の物件です。
「決め手となったのは、壁を全部抜けるところです。基本的に全部壁を抜いてワンルームにしたいと思っていたので、図面を見ながら『ここだ!』って」(夫)
マンション生活で見つけた“苦手なところ”をカバー
かつては船舶の設計に携わっていたというご主人。前に住んでいた新築マンションでは、図面の段階で自ら少し手を加え、オリジナリティのある間取りで暮らしていました。今回も、物件探しの段階でイメージしていたとおり、元々の壁を抜いたワンルーム風の開放的な間取りにこだわり図面を描き、フロッグハウスに託しました。
寝室とリビングダイニングの間には大きな室内窓を設置。お互い別の場所にいてもスムーズにコミュニケーションが取れるようにしています。
また、マンション暮らしをする中で見えてきた“自分たちの苦手なところ”をカバーできるような工夫を盛り込みました。
「色味を“白”に統一しました。マンションでは暖色系の照明やブラウン系のインテリアにしていたのですが、年齢を重ねるにつれ、目が見えにくくなってきたなと感じることが増えてきて。明るい方が過ごしやすいんじゃないかと思ったんです」(妻)
(明るく開放感を出すため、床材に白のフレンチへリボーンを選びました)
(洗面所にも、顔が明るく見える照明付きミラーを設置。歯磨きやメイクもしやすくなります)
生活の中で苦手に感じていたのは“片付け”。「できないなら全部壁に入れてしまおう!」というご主人のアイデアを実現しました。
(キッチンの背面の壁の中に、冷蔵庫や電子レンジ、洗濯機などをまとめて設置。3枚の引き戸ですっきりと隠せます)
参考にしたのは、同じデザインの家電を横に並べて美しく見せる、海外のスタイルでした。そのため当初は海外ブランドの家電で統一しようと考えていたそう。ところが、ちょうど設計を考えている時期に新型コロナウイルス感染症拡大の影響で世界的に半導体が不足。家電の入手が難しくなってしまいました。
「ドイツの『ミーレ』の家電で揃えたら美しく見せられるかなと思っていたんです。でも買えないから、家電も隠す設計に変更しました」(夫)
(キッチンの左側に直角に配置した引き戸の中は、全て収納。白い引き戸で隠したことで、部屋全体の明るさが増します)
大きく、動きやすく。キッチンへのこだわり
今井さんのお宅でひときわ存在感を放つのは、大きなキッチンです。夫婦揃って調理することが多いため、二人で作業しやすい大きさや通路の幅、コンロの配置など、こだわり抜いた結果、システムキッチンではなく造作で仕上げてもらうことになりました。
中でも、ご主人が特にこだわったのがコンロの配置。同じ3つ口コンロでも、三角状に並ぶ一般的なものではなく、より作業がしやすい横に3つ並んだものを探しました。ところがシステムキッチンを導入せずにコンロのみを購入することができないメーカーが多く、最終的には1口のコンロを横に3つ並べて設置しました。
天板には、ビールストーンという素材を使いました。完成品を搬入するのとは違い、現場施工ができるためサイズを大きくできたり、施主が自ら好きな石の色を選んで組み合わせられるのでオリジナリティを出せたりと、今井さんにとってメリットの多い素材でした。
(ショールームで石の組み合わせをいろいろと試し、ブルーの石がアクセントのプロヴァンス風にしました)
(サンプル板は、インテリアとしてリビングで使っています)
料理のためはもちろん、肌が敏感なこともあり、使う水にもこだわった今井さんご夫妻。「ミラブル」の浄水システムを取り入れ、家全体の水を浄水しています。古い団地での設置例がなかったため、はじめは断られたものの、代理店との交渉を自分たちで粘り強く続け、なんとか実現しました。
(家中の水につながる給水管に機器を接続。フロッグハウスとしても初の実績に)
暖房いらず!期待を上回る断熱の効果
フロッグハウスの勧めで取り入れた断熱は、今井さんの当初の構想にはなかったものの、期待以上の効果を感じているそうです。この日も外気温が5度程度にもかかわらず、暖房をつけなくてもポカポカ。冬の間中、暖房なしで16度を下回ることはないとか。
(外に面する壁には全て断熱材を入れ、窓は全て二重にしました)
「陽が当たると20度を超えてきますね。暖かい時期に咲くはずの花が、冬のうちに咲き出したんですよ。前の家じゃありえない。電気代もかなり下がりました。断熱材に関する知識がなかったので、フロッグハウスさんからの提案が助かりました」(夫)
(本来なら春に咲くはずのカンガルーポケットの花が真冬に咲いたそう)
最後に、お二人それぞれのお気に入りの場所を聞いてみたところ、ご主人はやはりキッチンをあげられました。横並びのコンロは使いやすく、「もう1個あってもよかったかな」とまで。動線がスムーズになり、二人同時に動きやすくなったそうです。
そして奥さまは、キッチンに立った時に見えるベランダ越しの眺めがお気に入り。高台にあるので窓からは海や、晴れた日にはさらに向こうの紀伊半島まで拝めます。朝日が差し込み部屋がほんのりオレンジに染まることもあるそうです。
(明るいリビングは想像以上に心地よいそう。ベランダの向こうには海が見えます)
(朝日でほんのりオレンジに染まった室内)
「実は今、隣の部屋が空いてるんですよ。ベランダを通って移動できるし、隣も買ってこことは全然違う雰囲気にリノベーションしようか、なんて話しています。今度はアメリカ風に、ブルックリンヘリンボーンの床にしたいですね」(夫)
実は、団地を横並びで2軒購入して住んでいる人は少なくないそう。片方を家事空間、片方を居住空間にして使い分けたり、今井さんの構想のようにテイストを分けて楽しんだり。1軒目のリノベーションで勝手がわかっていることや、購入金額が高くないことが、その決断を後押ししてくれるようです。
(廊下の壁の非常ボタンは、元からついていたもの。あえてスイッチと並べてレトロな雰囲気を楽しんでいます)
新築マンションでの暮らしを経て生まれた数々のアイデアを詰め込んだ、夫婦二人の団地リノベーション。「コンパクトになったことで動きやすくなった」と、今井さんが団地のほどよいサイズ感での暮らしに快適さを感じている様子が伝わってきました。生活を見つめ直すタイミングで、あえて団地リノベーションを選ぶ。長年暮らしと向き合ってきた世代にこそ、団地での家づくりが合っているのかもしれません。
(文・撮影:村崎恭子)
(撮影:藤田温、村崎恭子)