緻密に測って決めた生活動線、
選び抜いた一つひとつ。
全部気に入っているからかわいがれる。

コンセントの位置や作業スペースの幅、テレビの高さ……。便利に越したことはないけれど、各家庭によって“便利の基準”は違うから、ベストを実現するのは至難の業。

「好みとか、やりたいことがはっきりしている人はリノベ向きだと思います」

そう話すのは、このたび明石市内の中古マンションを購入・リノベーションして暮らし始めたMさん夫妻。二人は家づくりを進める中で、好みのテイストやディテールだけでなく、生活に合う緻密なサイズ感にもとことんこだわったといいます。

お話を聞けば聞くほど、Mさんこそまさしく「リノベ向き」。自由度の高いフロッグハウスとの相性の良さも感じられました。いったいどんな風にやりたいことを叶えていったのでしょうか。

■DATA

住所:兵庫県明石市
スタイル:中古マンションリノベーション(約58㎡、購入時築38年)
費用:物件購入非公開、リノベーション約700万円
家族構成:夫婦(30代、共働き)
フロッグハウス担当者:清水大介

旅行ができず「やることないね」が始まり

Mさんが中古リノベを検討し始めたのは、2020年春。コロナ禍で趣味の旅行に行けなくなり、“住む家”について考えることが増えたのがきっかけでした。インスタグラムで家の投稿を熱心に見るようになったといいます。

「いろいろ調べていると、中古を購入して自分たちの好きなようにした家って、賃貸の毎月の家賃と価格面がそんなに変わらないことがわかって。それなら持ち家の方がいいか、って」(妻)

「内装とかも自分たちで決めたかった。リノベだったら自分の好きなようにできるから、自分たちに合っているかなと思いました」(夫)

かつて大阪で団地のフルリノベーション物件に住んでいたこともあり、団地リノベを得意とするフロッグハウスに問い合わせながら、当時住んで気に入っていた明石市内で物件探しを始めました。団地も視野に入れていたものの、電車通勤する奥さまにとって譲れない「駅近」にかなう団地物件には出会えず。1年近く探したのち、JR西明石駅から徒歩圏内にある現在のマンションを不動産屋で見つけました。

「決め手は立地と価格ですね。住宅街だけど周りは全部一軒家だから見晴らしが良くて、視線が気にならないんです」(妻)


(東向きの広いバルコニーは最上階の特権。見晴らしもよく、バーベキューができないかと計画中)

東西2面にバルコニーがあることも理想的だったそう。購入前にはフロッグハウスの清水に立ち合いを依頼。カビの具合、壁を取り払えるかどうか、水回りのことなど、気になる点を相談した上で購入を決め、家づくりが始まりました。

夫婦の好みが真逆だから、役割分担で決めた

内覧時から頭の中に間取りの変更イメージを描いていたというMさん。いざ打ち合わせが始まると、元の間取り図に色鉛筆で描いて「こんなのできますか?」と希望を伝えました。


(色鉛筆で描いた間取りのイメージ。元は3DKだった間取りを1LDKにするため、壁が取り払えるかどうかは大事なポイントだったそう)

インターネットで自分たちの好みの画像をたくさん集めてメールやLINEで伝えたり、フロッグハウスが手掛けた物件を見学して実際の雰囲気を確かめたりしながら、やりたいこととできることとの折り合いをつけていきました。

とはいえ、Mさん夫妻の好みは真逆。ご主人は無機質でシンプル、奥さまはこまごま・ガチャガチャした空間が好きなので、壁や床など大きなところはご主人が決め、スモールスペースや設備面で奥さまの好みを入れていったそう。お互いの譲れないポイントがずれていたため、揉めることはなかったといいます。


(壁紙やタイル、床など大きなところはご主人がチョイス。白〜ベージュが基調)


(奥さまが選んだ洗面台はなんと病院用で、水栓はキッチン用。なんでも洗える大きさ、掃除のしやすさを考えました。雫型のタイルはご主人が選びました)


(ウォークインクローゼットの寝室側入り口を鉛筆型にしたのも奥さまのこだわり。壁紙はインスタグラムの投稿者に問い合わせて品番を聞いたそう)


(奥さまの1番のお気に入りの場所はトイレ。トイレだけはガチャガチャさせようと決めていたそう。両サイドの壁紙は、実はあの「ウォーリー」柄。)

生活動線にこだわり、緻密に計算したサイズ感

テイストの好みは違っても、二人ともとことんこだわりたかったのは生活動線です。掃除や洗濯、収納、調理、家電の位置に至るまで、生活の全てがスムーズになるよう、サイズを測って指定したそう。

例えば、このキッチン。壁の裏側にウォークスルーのパントリーを作り、動線がスムーズな隠す収納を実現。リビング側からキッチンを見ると、まるでモデルルームのように家電や食器などがスッキリと並んでいます。

「家電は何を置くかをあらかじめ決めて、後ろの壁と冷蔵庫の大きさから考えて……とにかくめっちゃ測ったんです。冷蔵庫を数年で買い換えることも想定して多少の余裕を持たせました。で、清水さんにコンセントの位置を『何センチで』ってお願いしたんです」(夫)


(二人が同時にキッチンに立てるよう、作業スペースには十分な幅を持たせました)

お掃除ロボットを想定して床はフルフラットにし、パントリーの入り口に基地を設置。大工さんの造作でリビングに作った琉球畳の小上がりの両サイドも、お掃除ロボットに合わせて1センチ単位でサイズを指定したとか。


(キッチンの裏にあるパントリーの入り口にお掃除ロボットの基地を設けました)

さらに、テレビの配置にまで並々ならぬこだわりが。壁に穴を開けてスタンドを設置し、配線は全て壁裏のウォークインクローゼットに隠すことで、見た目はスッキリ、埃も溜まりにくく掃除が楽に。

このスタンドは左右の向きや上下の角度を変えられるため、いろんな方向から観やすいベストの高さを測って決めたそう。

「小上がりに座って観るとき、テーブルに座って観るとき、キッチンに立って観るとき……現場にメジャーを持って行って、大工さんの道具の上に立ってシミュレーションして。結局120cmだったかな、この高さがベストだと思っています」(妻)


(どちらかが小上がりで、どちらかがテーブルに座りながらテレビを観ることが多いそう。壁と小上がりの間の幅は、お掃除ロボットがちょうど通れるサイズ感)

「これがしたい」の積み重ねに応えてもらった

緻密なサイズ指定だけでなく、ショールームに何度も通って自分たちでサンプルを取り寄せたり、資材をインターネットで購入したり、インスタグラムなどをヒントにやりたいことをリクエストしたり…。終始「これがしたい」と自ら提案し続けたそう。

「本当にその積み重ねです。そういう細かいリクエストに清水さんは付き合ってくれましたね」(夫)


(造作の小上がり。琉球畳は、自分たちでインターネットで見つけて購入。畳2枚分の引き出しは、大工さんの丁寧な仕事に優しさを感じたそう)


(室内干し用のバーも施主支給。オーダーのため納期が遅くなり、入居後に清水が取り付けました)


(玄関は「広げて斜めに切りたい」と希望したものの、元々あった段差がネックに。左官仕事でスロープにすることで実現しました。)

“漫喫みたいに篭れる小部屋”、“腰掛けられる窓枠”など、当初やりたかったことのうち泣く泣く諦めたこともありましたが、二人とも今の家に満足しているといいます。

「以前と比べて家事動線が楽になりました。共働きで二人ともやらなあかんので、二人で動きやすいです。掃除も楽だし」(夫)

「全部自分が気に入っているから、かわいがれますよね。ちょっとぶつけてしまったときに『あ、ごめん!』みたいな。賃貸のときは気にしてなかった。寝る前にちょっときれいに拭いておこうとか、やっぱり愛着がわきますね」(妻)

打ち合わせのたびにメジャーで測って考え抜いたサイズ感も、ショールームやインターネットで調べて選び抜いた一つひとつも、今の暮らしの心地よさにつながっているようです。


(インスタグラムをヒントにリクエストして大工さんに端材で作ってもらったユニットボックス)

趣味の旅行ができなくなったことがきっかけで、自分たちらしい住まいをつくり上げたMさん夫妻。やがてまた自由に海外を旅できる日がくるでしょう。こんなにもいとおしい空間であれば、旅を終えて日常に戻るのが楽しみになりそうです。

(文・撮影:村崎恭子)