娘たちの“帰ってくる場所”にしたい。
将来を見据えてこだわった、母の愛があふれる団地リノベ

Writer:村崎恭子
ライター/エディター/プランナー。サステナビリティやソーシャルグッドな活動の担い手へのインタビュー取材が専門分野。エシカルなものづくりのストーリーを届けるショップ「メルとモノサシ」を運営しています。https://meltomo.theshop.jp/

「家に帰ってリビングの扉を開けたとき、このニッチとライトが目に入ると、テンションが上がるんです」

JR神戸線朝霧駅から徒歩10分ほど。神戸市と明石市にまたがる明舞団地の一角にある、狩口台住宅の物件を購入し、リノベーションした住まいで暮らすYさんに、このお家のお気に入りを尋ねると、目を輝かせながら、こう教えてくれました。

下の娘さんが巣立つ直前に完成した、Yさんの“お城”。無垢材の床やウィリアム・モリスの壁紙、鳥のモチーフが特徴的なランプなど、Yさんが選んだ内装の一つひとつが、明るくてやわらかい、居心地のいい空間をつくっています。

Yさんはどんな思いで、今回の家づくりに臨んだのでしょうか。二人三脚で歩んできたフロッグハウスの設計担当・笹倉みなみと一緒に振り返ってもらいました。

■DATA

住所:兵庫県神戸市垂水区
スタイル:団地リノベーション(約57.34 ㎡、築54年)
費用:物件購入費約450万円、リノベーション費約860万円(補助金26.4万円含む)
間取り:Before3LDK → After 1LDK
フロッグハウス担当者:笹倉みなみ

実家を出て始めた、物件探し

元々、狩口台住宅は自身が通っていた中学校の校区内で、なじみがあったというYさん。少し前まではご実家でお母様と同居していました。中古物件を購入してリノベーションすることを決め、実家を出て明舞団地内のUR住宅で暮らし始めるとすぐ、狩口台住宅の駅近エリアに焦点を絞り、物件探しを始めたそうです。

「緑も多いし、ランニングコストもマンションほどかからないので団地がいいなと思っていました。実家では母が一人暮らしなのであまり離れたくなかったし、当時一緒に住んでいた娘が電車通学だったので、狩口台の駅に近いエリアがベストだなと。さらに、私自身も過去に足の手術をしていて階段を上るのがきついので、1階限定で、空き物件が出るのをひたすら待ちました」

エレベーターのない団地において、階段を上らなくていい1階の物件は、団地内の住み替え需要もあるため、なかなか出会えないのが実状です。不動産会社のホームページで新着の物件情報を見るのが日課になっていた中で、Yさんは不動産会社の紹介で、近隣の別の団地の物件もいくつか内見しましたが、他を見れば見るほど、「ここしかない!」と、狩口台への思いが強くなっていったといいます。

その思いが通じてか、探し始めてわずか3〜4ヶ月後、今の物件に出会ったのです。室内には大量の残地物があり、一部の壁にはカビがびっしり。綺麗とは言い難い状態に、娘さんも心配していたそうですが、団地リノベを決めてから数々の施工例も見てきたYさんは「大丈夫!」とその場で契約。駅徒歩10分程度で、ご実家にもすぐに駆けつけられる距離の物件を手に入れ、Yさんのリノベーションが幕を開けました。


(玄関からリビング・ダイニングへの扉の横にある、はめごろしのガラス窓は、元々のものをそのまま活かした少ない箇所)

暮らしによりそうフロッグハウスのファンに

Yさんが物件の購入を即決した背景には、すでに“ファン”とも言える状態になっていたフロッグハウスの存在がありました。

「初めて知ったのは、物件を探し始めた頃。ネットで検索したらトップに出てきたんです。他社さんのサイトも見たけど、わりと“カッコ良さが一番”みたいなところが多くて。もちろんそれもいいんだけど、フロッグさんの施工事例を見ていると、住みやすさを大事にしている印象を受けたんです。

実際に問い合わせをして、初めて見せてもらったフロッグさんの物件は、コンクリート剥き出しで、インダストリアルな雰囲気のものでした。私の好みとは違ったけれど、一つひとつの説明を聞いていると、暮らす人に寄り添った提案をしてくれるということがわかって。やるなら絶対フロッグさん!と決めました」

物件探しと並行して、フロッグハウスが神戸市と一緒につくりあげた名谷団地のショールームも見学し、自身のリノベーションのイメージを固めて行ったYさん。不安が残る物件を迷わず購入したのも、「フロッグさんがなんとかしてくれる」と、すでにファンになり、厚い信頼を抱いていたからだといいます。


(元々右開きだったトイレの扉を、使いやすく左開きに変更。「実は変えてくれてますよね?」と、住み始めて気がついたYさん。細部にまで配慮が行き届くのは、団地リノベの経験値あってこそ <筆者撮影>)

リノベのテーマは「娘たちが帰ってくる場所」

契約から1ヶ月後に物件の引渡しが終わり、いよいよ始まったYさんのリノベーション。回遊性のある設計や天然木などの素材については名谷のショールームをベースにしながら、思いを形にしていくことになりました。Yさんが一番大切にしていたのは、二人の娘さんにとっての「帰ってくる家」にすること。

「娘たちからすれば、家を出てから親だけが綺麗な家に住み始めても、なかなか“実家”になりづらい気がして。上の娘はもう下宿していたんですけど、下の娘は進学のため数ヶ月後に家を出ることが決まっていたんです。だからなるべく、物件探しの段階から娘たちを巻き込んで進めたし、下の娘が引っ越すまでの間、少しだけでも一緒に暮らせるよう、進めてもらいました」

そのため、かなりタイトな工期設定に。ですが、あらかじめフロッグハウスに相談する中で好みのテイストや「名谷のようにしたい」と要望を伝えられていたこともあり、笹倉の提案に対し、前向きに一緒に決めていくことが多かったそうです。


(元々は、引き違いの間口と押入れがあった部分を、アーチ状の間口にしてダイニングとリビングをつなぎ、開放的に。このアーチは、フロッグハウスの施工事例を見てYさんが気に入っていた要素のひとつ)

名谷のショールームを見て、絶対に取り入れたいと思っていたのが、ダイニングテーブルを兼ねたカウンターキッチン。名谷と同じモルタルの天板にしたかったものの、予算の都合で無垢の杉材に。しかしその分、温かみのあるキッチンになりました。


(娘さんたちと一緒に鍋をつつける大きさにこだわったら、この形に。工事中は「おしゃもじカウンター」と呼んでいたそう。表面にウレタンを塗装し、水や汚れを対策)

お家全体の雰囲気をつくっている、モリスの壁紙やパインの床材、冒頭に登場したリビングのニッチ上に設置したステンドグラスのライトは「みなみさんのお見立てのおかげ」とYさん。笹倉からの提案に対し、「二人でキャッキャと言いながら決めた」と振り返ります。


(ウィリアム・モリスの壁紙は、ダイニング、リビング、トイレ、ニッチの4箇所で採用。「予算も大きく変わらないですよ」と、Yさんの好みに合わせて笹倉から提案したもの)


(リビングダイニングの床材は、無垢のパイン材を採用。一階のため、底冷え対策を兼ねて笹倉から提案。表面は浮造りという技法で、木目が立体的に浮き出ているので、滑りにくさもある <筆者撮影>)


(当初からYさんがどこかに採用したいと考えていたニッチは、大工さんの提案でここに設置。その上のステンドグラスのライトは笹倉が提案。リビングの電気を点けると一緒に灯るようにした)

将来のことを考え、悩み抜いた小上がり

その中で、Yさんが最後まで悩み抜いたのが、リビングの奥に配置した4.5畳の小上がりです。


(リビング奥の小上がりは、ダイニングキッチン側を斜めにすることで、スムーズなつながりが生まれた)

4.5畳にしたのは、娘さんたちが帰ってきたとき、ここに布団を2組敷いて寝られるようにするため。Yさんはさらに、娘さんたちが将来お母さんになって帰ってきたときのことも考え、「赤ちゃんを床に寝かせるのは抵抗があるから…」と、最初から小上がりの設置を希望していました。

ところが、小上がりの実現にはコスト面の壁が立ちはだかりました。小上がりの予算は約50万円。全体のコストに大きく影響するため、床に畳を敷き詰める案を検討したり、一度は設置を諦めたり。ところが最後の最後で、「やっぱりやります!」と決めたYさん。笹倉も予想外の展開だったといいます。

「50万と聞いて怯んでいたけれど、“いや、待てよ”と。やっぱり思い浮かんだのは、娘と赤ちゃんのことでした。床から上がっていれば、お布団を敷くだけで赤ちゃんを寝かせてあげられるやんって。もしかしたらお産でこの家に帰ってくるかもしれない未来を思って、やっぱりつくります!と」


(畳は、水を弾く化学和紙なので、飲食はもちろん、授乳やオムツ替えもしやすい。小上がりの床下は、大きな引き出しにして、娘さんの荷物を中心に収納している)

通常の小上がりより少し低めの38cmという高さも、実は絶妙なこだわり。座りやすさだけでなく、部屋全体に圧迫感が生まれないように、笹倉や大工さんと一緒に、座ったり立ったりを試して決めました。

「この高さがとってもよくて。お客さんが来てお茶を出すと、みんな、自然とあそこに座って喋るんです。縁側みたいになってますね。疲れたときに窓の外を見ながらごろんと寝転がることもできますし。小上がりは、本当につくってよかったなと思います」

絶対におすすめしたい、全面断熱

Yさん邸は、断熱をしっかりと施しているのもポイント。全ての窓を二重窓にし、外に面している南北の壁には断熱材を入れています。フロッグハウスはお客さまに断熱を勧めていますが、Yさんは経験上、迷わず提案を受け入れたといいます。

「昔住んでいた分譲マンションは、ここより築年数は浅いんですけど、冬は結露がひどくて。毎朝、窓の結露取りから始まるような感じだったんです。その経験上、断熱は必要だと思っていました」


(二重窓は、断熱のみならず防音の効果もある <筆者撮影>)

断熱なしでは壁にカビが生えてくることは、工事前の物件が物語っていたこともあり、断熱にコストをかけることには全く抵抗がなかったというYさん。実際に暮らしてみて「毎日暖房をつけていた月でも、ガス代込みで1万円しなかった」と、電気代のあまりの安さにびっくりしたそうです。

それだけでなく、部屋の真ん前に駐車場があるにもかかわらず、外の音が全然気にならないといいます。あまりに静かなので、エアコンの音の大きさが気になり「エアコンの取り付け方がおかしいかも」と、笹倉に連絡をしてしまったほど。


(玄関からもリビングからもアクセスできる寝室には、駐車場に面するベランダがあるが、外の音を気にせず眠れるそう)

いつか団地内に、子どもやお年寄りの居場所をつくりたい

母の愛をひたすらに感じる、Yさんのお宅。予定通り、下の娘さんはこの家で3ヶ月ほど一緒に暮らし、県外へ進学しましたが、今はよく、上の娘さんと一緒に“実家”へ帰ってきて、小上がりでくつろいでいるそうです。

娘さんが巣立つタイミングで団地暮らしが始まった今、Yさんは団地でやってみたいことがあるそうです。

「私ね、団地でこども食堂とかしたくって。子どもだけじゃなくて、お年寄りの方やお家にいる方がお昼間にちょっと集まれる場所が、団地内にあったらいいなって。昔はここでも、クリスマス会や夏祭りがあったけど、参加者が減ったりお世話をする人が高齢化したりして、どんどんなくなっているみたいです。

私もあと数年で定年だし、このままでいいんかな?と考えていたら、ふと思いついたんです。小児科で働いていたこともあって、私は子どもが大好きなので、子どもの居場所をつくろうと思ったときに、“お年寄りの方の居場所にもなる!”と。私の母も、“働きたいけど働くところがない”って言うんですね。団地にはそういう方がいっぱいいらっしゃるかもしれない。みんなで一緒にこども食堂のごはんづくりをしたり、特技をいかして、習字やピアノを子どもたちに教えたり。子どもも大人も敷地を出ず、住み慣れたところでそんなことができたらいいなと、夢が膨らみます」


(「ほんまに住みやすいから、ただ古いというだけ、敬遠する場所になってほしくない」とYさん)

高齢化が進む団地ですが、かつては広い敷地内で子どもたちが遊んだり、家庭菜園の区画では住人が一緒に野菜を育てたりしていました。Yさんのような人が、団地に暮らす多世代の人たちのつながりを、そんなふうに取り戻してくれたら、どんなに素敵な未来が待っていることでしょう。

団地の一部屋をリノベーションして暮らすことだけでなく、団地全体を活用して、自分の「好き」を実現していくーー。Yさんが語る夢からは、団地暮らしの可能性がますます広がっていくように感じました。Yさんの愛が団地の人びとをつなぎ、再び団地が活気あふれる場所になっていくことを願ってやみません。

(執筆&TOP画像撮影:村崎恭子)
(撮影:藤田温)